編集長コラムvol.28 私立志向の高まりと、私立ボーダーの変化

今春実施(現高1世代)の公立高校入試における平均点をはじめ、各種のデータも出揃ってきました。ここからは各塾においても、得られたデータをもとにより一層具体的な対策へと昇華させ、そして勝負の夏へと臨むことになります。

そんな受験シーズン本格化を前に、既に一部の私立高校では募集要項や推薦基準の発表が始まっていますが、一つ顕著な傾向として表れているのが、人気校の進学校化の加速です。

もとより生存競争の過酷な私立においては、進学実績を確保すべく優秀な学生層の確保に努める動きはありましたが、昨年今年はその傾向に拍車がかかっている印象を受けます。

その象徴が、推薦基準の引き上げです。

背景には私立の優位性認知と、経済的支援の拡充が

例えばある私立高校では、ほんの2-3年前まで一番下のコースで偏差値50台前半だったものが、先日発表されたものでは60弱という水準になり、ここ数年でかなり難化することとなりました。

上記の例は極端なものですが、他にも1年単位で見れば1ポイント2ポイントの上昇でも、数年単位で見れば相当な変化になって表れているところもあり、決して珍しいものではなくなっています。

その背景には、先に挙げた進学実績作りのための優秀層の確保といった高校側の思惑以外にも、いくつかの理由が考えられます。特に志望する生徒側の思惑としてイメージしやすいのが、進学指導の熱心さや、コロナ禍において迅速なオンライン授業の導入などに見られた私立の優位性です。

事実、ここ数年公立高校離れは続いており、埼玉の公立高校入試倍率は4年連続で低下中です。さらに深刻なのは、定員が減少しているにも関わらず倍率が低下していることで、実際に公立中学生の公立高校進学率は7割を下回るという約30年ぶりの水準にあります。

さらに拍車をかけて、県独自の私学授業料等補助金や国の修学支援金も拡充しており、ますます以前のような“何が何でも公立派”が減り、むしろ“先々まで考えれば私立の方が良い”とお考えの層が増えているのです。

結果として、一部の私立高校には進学希望者が殺到するわけですが、話題になった大学の入学定員厳格化は、実は高校にも適用されるもので、私立高校としても押し寄せる進学希望者を全員受け入れるわけにはいかないという事情があります。

つまり、人気校ほど、前年度までに多くの生徒を受け入れてしまった高校ほど、本年度は入学者の絞り込みを行う必要が生じ、その一環として、推薦基準の引き上げへと強気に舵を切ることが可能になってきたわけです。もちろん冒頭にも触れた通り、これは進学実績作りを目論む私立高校としても、むしろ歓迎すべき状況です。

特に上の兄姉で既に受験を経験済みで、主な私立高校のボーダー感覚をお持ちと自負されている方こそ危険で、たった2-3年前の情報ですら既に過去のものであるというケースは少なくありません。

1回1回の定期テストや模試に真剣に取り組むことは大前提のこととして、過去の情報を過信したり、偏見や先入観で志望校をイメージすることなく、常に最新の情報にアンテナを張っておかないと、いざという時にイメージの違いに驚くことになるだけならまだしも、「条件を満たさない」という悲劇も起きかねません。

私立志向の高まりは、既に間違いなく、私立の勢力図にも大きな変化をもたらしていることには敏感になっておくべきでしょう。